野崎和歌子がさらわれてから一日が過ぎた。西井探偵は自分の敵であるアゴラ、そして野崎和歌子を捜すために、必死だった。この日、西井探偵宛に次のような手紙が送られてきた。
やあ、西井君、その後は元気かね。
実は、野崎和歌子はこの私があずかっている。心配はいらない。彼女は生きている。しかし、私は5日後に彼女を殺す。そして次は君だ。それまでせいぜいがんばって捜したまえ。
怪人アゴラ
「野崎和歌子は生きている!」
西井探偵はそう言うとすぐに、沖田探偵に知らせた。そして、豊田警部にも知らせた。
時は夕方の六時、西井探偵は豊田警部と話をしていた。
「西井探偵、アゴラはあなたを狙っているようですが。」
「そうですね。そのために私の妹を殺し、さらに野崎和歌子をおとりとして捕まえたのでしょう。」
「それならば、あなたが一人でここにいては危険です。」
「大丈夫です。こう見えても私は探偵です。それよりも、早く野崎和歌子の居場所をつきとめ、無事に救出することが先だと思います。怪人アゴラは私を最大のタ−ゲットにしていますが、野崎家もタ−ゲットにしています。」
「そうですね。」
「ここは、沖田君にも頼みましょう。」
それから野崎和歌子の捜索が始まった。
野崎和歌子がさらわれてから二日がたった日のこと、秩父市の中心部にある喫茶店で一人の男が殺された。この知らせを聞いた西井探偵は、すぐにその喫茶店に向かった。殺しがあった喫茶店に着くと、そこには沖田探偵がいた。
「おお、西井君。」
「これは沖田君、早いじゃないか。」
「いや、たまたま近くにいたので。」
「近くに?」
「うん、ほらこの近くにある秩父市立秩父宮図書館に。」
「なるほど、そこでアゴラのことを調べていたのですか。」
「うん、だがやっぱりなにもわからなかった。」
「そうですか。」
「ところで沖田君、この殺しは。」
「どうやら、怪人アゴラの仕業のようだ。それから、この死体の男はどうやら野崎和歌子の兄の太一のようだ。」
「なんだって!」
「おそらく怪人アゴラは野崎家を狙っているのだろう。そうすると、野崎和歌子が危ない。早く捜さなければ。」
沖田探偵はそう言って、外へ出ようとした。そのとき、西井探偵が呼び止めた。
「沖田君。」
沖田探偵はハッとした。そして西井探偵のほうを向いた。西井探偵はそれを見ると話し始めた。
「実は怪人アゴラの最大のタ−ゲットはこの私なのだよ。」
「なんだって!」
「昨日、このような手紙が送られてきた。」
そういうと、沖田探偵に手紙を見せた。
「なんと、これは!」
沖田探偵は驚いた。
「沖田君、私にとって怪人アゴラは一番の敵である。私はそのアゴラの正体を調べたいと思う。そこで君に頼みがある。君は野崎和歌子を捜してくれないか。もちろん、私も捜すが、秩父市を一人で捜すのは無理なのでね。」
「わかった。私も怪人アゴラには興味がある。野崎和歌子を捜そう。」
「ありがとう。それから、私はここ二日間ここにはいなくなるので、この辺で起きた事件を頼みたいのだが。」
沖田探偵は少しの間何も言わなかったが、しばらくしてこう言った。
「わかった。君の頼み、引き受けよう。」
「ありがとう。」
そういうと、西井探偵は外へ出ていった。沖田探偵は多くの警官をつれて、野崎和歌子の捜索を始めた。
西井探偵は事務所に帰ると、横になった。そしてひと眠りした。時が過ぎた。どのくらい眠っただろうか。西井探偵が目を覚ましたとき、外は薄暗かった。そのとき、西井探偵はなぜか自分の机の隣にある妹の机に目がいった。
「まてよ、あのとき。」
西井探偵は妹、京子が使っていた机の引き出しを開けた。
「こ、これは!」
そこには手紙がたくさん入っていた。西井探偵は一つ一つそれを読んだ。そのうちの一つに、こう書いてある手紙があった。
やあ、京子君、元気そうだね。君は今、この私に狙われている。もし殺されたくなければ、
君の兄、隆一郎を奇岩城まで連れてきたまえ。奇岩城の場所は知っているはずだね。もし連
れて来なければ、そのときは君の命はない。 では。
怪人アゴラ
「奇岩城?」
西井探偵は他の手紙の中から、奇岩城について書いてあるものをさがした。
「ん、こ、これか!」
西井探偵はその手紙を持つと、すばやく外へ出ていった。一方、沖田探偵はひとまず警官と別れ、一人家へ戻った。
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