パソコンルーム

「キューハチ」、「キュッパチ」。この言葉を聞いたことがある人は結構いるのではないだろうか。この呼び名は、1982年10月に初代機が発売された、日本の国民機、NECのPC-9800シリーズ（PC-9801シリーズ、PC-9821シリーズ）パソコンの愛称である。本体に漢字ROMを搭載し、日本語に強い日本人向けの日本人のためのパソコン。それがキューハチだった。

■PC-9801のデビュー、そして不動の地位を確率
キューハチの歴史は1982年10月にさかのぼる。この年のこの月に、NECから初代「PC-9801」が発売された。CPUにIntelの8086（クロック5MHz）プロセッサを搭載した16ビットパソコンで、前年に発売されたＩＢＭ-ＰＣより高速で高解像度、さらに日本語処理能力が格段に優れていた。NEC独自規格（98アーキテクチャとも言われた）だが、この性能がやがてPC-9801を不動のものとした。多くのソフトメーカーがPC-9801用のソフトを作り、ビジネスにホビーにと、国民機はなんでもこなす万能パソコンへと成長していった。

■PC-9801の進化、16ビットから32ビットへ
キューハチ自体も時代のニーズに応えるように発展していった。初代PC-9801のクロック周波数は5MHz。数年後にはIntelの80286（クロック12MHz）プロセッサを搭載した機種（PC-9801VX、RX）が登場し、16ビットパソコンは飛躍的に進化した。さらに、1988年には、PC-9801初の32ビットCPU、Intelの80386を搭載したPC-9801RAが登場し、PC-9801はさらに進化を遂げる。

■Windows新時代、そしてキューハチはPC-9821へ
発展してきたPC-9801ではあったが、時代が変わるのは早く、PC-9801RAの登場によりキューハチは本格的に32ビット時代を向かえる。PC-9801Dシリーズ（DA、DS、DX）では、ハイエンドマシンがDA、中間期がDS、ローエンドがDXというスタイルになった。DXのみ80286を搭載した16ビットパソコンであったが、これが最後の16ビット機となった。
やがて、OSがMS-DOSからWindowsへ移行しはじめると、Windowsの高解像度へ対応した機種が求められるようになる。そしてキューハチは、1992年にPC-9801の上位互換機であるPC-9821シリーズの登場となり、新たな時代を向かえる。1993年、キューハチはPC-9821（通称98MATE）とPC-9801（通称98FERRO）の２タイプにわかれた。特に初代98MATEの最上位機種PC-9821APは、i486DX2（クロック周波数66MHz）という、当時では驚異的な速さを誇るプロセッサを搭載していた。
やがて、Windowsを標準OSへと押し上げたWindows95が発売されると、キューハチはPentiumを搭載し、MATEシリーズに一本化されることになるのである。

■キューハチの歴史に幕・・・
圧倒的なシェアを誇り、国産パソコンの第一人者として発展してきたキューハチ。PC-9821という新しい扉を開け、さらに発展を続けていく、国民機キューハチ。しかしながら、PC-9821シリーズの登場は、Windows時代の幕開けでもあった。
PC-9800 の有利点はそのソフトの数にあった。DOS/Vパソコン（IBMのPC/AT互換機をこのように呼んでいた）よりも動作するソフトが多く、PC-9800シリーズを１台持っていれば、ほとんど何でもできるといっても過言ではなかった。ところが、Windowsはこうした機種に依存する垣根を取り払う目的があった。Windowsの搭載されたPC-9800とDOS/Vパソコンでは、同じWindows用のソフトが動作し、完全にPC-9800とDOS/Vパソコンの垣根はなくなった。PC-9800の有利性はなくなり、独自のアーキテクチャが重荷となって、比較的価格の安いDOS/Vパソコンへ、利用者が流れるようになった。NECは、98アーキテクチャにこだわり、MATEを登場させ、MATEを発展し続けてきた。しかし、時代の流れは98アーキテクチャを必要としなくなり、NECは1997年10月、DOS/Vパソコンとほぼ同等のアーキテクチャを採用したPC-98NXシリーズを世に送ったのである。こうして、10年間にわたるPC9800シリーズ（98アーキテクチャー）の歴史に幕が下ろされたのである。。